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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)117号 判決

札幌市北二条東八丁目五番地

上告人

北田慶子

右訴訟代理人弁護士

庭山四郎

同市南七条東二丁目

被上告人

斎藤稔

右訴訟代理人弁護士

岩沢惣一

小野寺彰

右訴訟復代理人弁護士

松永芳市

右当事者間の目的物に対する第三者異議事件について、札幌高等裁判所が昭和二七年一月一一日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があり被上告人は上告棄却の判決を求めた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人の上告理由は別紙記載のとおりであるが、論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。((一)本件は第三者異議の訴で被上告人の所有権が認められればいいのであつて、所有権取得の経路について多少被上告人の主張と異なる事実が認定されても違法とはいえない。そして被上告人主張の売買と原審認定の売買とはもともと同一の売買である。甲第三号証の日附を被上告人は所有権取得の日と見てその旨主張し、原審はこれを単なる物件引渡の日と見ただけの相異であり、基本行為は同じなのであつて全然別個の事実を認めたのではない。(二)原審の認定した処によると昭和二六年一月二一日の株主総会において本件訴外会社は本件物件が被上告人の所有であることを認め会社は被上告人からこれを賃借する旨の承諾を為し、同月二三日頃右会社と被上告人との間に本件物件につき占有の改定による引渡が行われたというのであるから、これらの事実を総合すれば有効な追認があつたものと認定して差支ない。(三)右株主総会当時の商法においては監査役の株主総会招集権は所論の様な限極されたものではない。原判決は措辞稍不充分の嫌はあるけれども、結局原審の認定した事実により主文は維持されるから論旨は理由なきに帰する)

よつて民事訴訟法第三九六条、第三八四条、第九五条、第八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

昭和二七年(オ)第一一七号

上告人 北田慶子

被上告人 斎藤稔

上告代理人庭山四郎の上告理由

民事訴訟は当事者弁論主義であつて当事者の主張した事実以外は裁判所は判断出来ない。之は旧大審院の確定判例である。

然るに本件は北海製パン工業株式会社代表取締役渋谷正人の権限について仮にその権限がなくとも会社は追認して居ると判断されて居て之は被上告人(被控訴人・原告)の主張しないところであるから従来大審院の判例と相反する判断をして居る。

以上

昭和二七年(オ)第一一七号

上告人 北田慶子

被上告人 斎藤稔

上告代理人庭山四郎の上告理由

一、原審は当事者の主張しない事実を認定して裁判の資料と為した不法があり、昭和十二年(オ)第七五八号、同年十一月六日大審院民事第三部判決(判決全集四輯二二号二二頁)に相反する判断を為したものであるから破棄を免れない。

二、(一) 原判決はその理由の冒頭に於て

……その物件が被控訴人の所有であるか否かが争点である。

と述べている。

(二) 成る程本件は民事訴訟法第五百四十九条の第三者異議の訴なのであるから、右のようなことはいう迄もなく自明のことである。然し之では争点の把握の仕方が余りにも茫漠としている。

(三) 原判決は第一審判決(上告人欠席)の事実摘示を援用しているがその第一審判決の被上告人の主張は

……別紙目録記載の第一乃至第六号の物件は原告(被上告人)が昭和二十五年七月二日訴外渋谷信一から右訴外会社(訴外北海製パン工業株式会社)に賃貸中の儘の状態で代金一万六千八百円で買受け、その所有権を取得したものの一部であり、同目録記載の第七乃至第九号の物件は原告が昭和二十六年一月二十二日、同訴外会社から代金九万円で買受け、その所有権を取得した札幌市南十四条西七丁目千五十四番地所在木造柾葺工場に各備付の内部造作等の一部であり、孰れも各売買の当日から将来更めて賃貸借契約を締結する迄の間、その使用を許して同訴外会社に保管させていたものである。

と謂うのであつて原判決の所謂甲物件も乙物件も、右各年月日に売買によりその所有権を取得したものと極めて狭い主張をしているに過ぎない。

(四) 即ち被上告人は孰れも各右年月日に於ける右訴外渋谷信一、若しくは訴外会社からの売買により取得した所有権に基く第三者異議権を主張しているものである。

三、(一) 然るに原判決は右乙物件につき被上告人(原告)主張の昭和二十六年一月二十二日とは異り、昭和二十五年七月に之を取得したものとしている。

(二) 事実上の問題としても乙物件中硝子戸十枚は右の時より後に、昭和二十五年八月十六日頃社長岸尾正郎が買つて備付けたものであつて(原審証人岸尾正郎の供述)、原判決が認定した日には客観的に此の地球上に存在していないものである。さればこそ原判決の援用する甲第三、同第七の一、二は殊更に売買の日附を昭和二十六年一月二十三日としている。引渡の日と見る原判決は空中樓閣を描いたに過ぎない。

そのような認定自体が之等の書面の文言と矛盾する。右の点は暫く措くとするも右の日時が違えば発生事実が異り権利の内容が異るものである。

(三) 右の点は当事者の主張しない事実を以て判断の資料となしたものである。

四、(一) 更に原判決は前段に於て右の如き認定をして置き乍ら、後段にては右甲物件、乙物件共会社代表者の処分の権限に疑点があると許り、前段の認定と相矛盾する如き認め方をし更に

……会社代表者或は代理人の権限が仮りに欠けていても、その行為は追認され被控訴人(被上告人)の所有権取得は有効となつたものといわねばならない。

と認めて判決文の中で勝手に釈明して勝手に判断している。

(二) 先ず第一に甲第八号証(株主総会議事録)に追認なる文言は半句も記載がない。凡そ無権代理行為の追認なるものはその代理権なきことを知つて、然もその効力の付与を欲する意思表示(默示にても可)であるのであつて、右の株主総会の際も本件物件の処分が当初から有効であることは恥知らずにも強引に主張した発言者(渋谷正人)があつただけのことであつて、明示若しくは默示の追認なる意思表示はついぞ存在しなかつた。勿論之は相手方(被上告人)に対する意思表示でもない。

(三) まして况んや右の甲第八号証(株主総会議事録)は名前こそその通りであるが、夫れは株主総会でも何でもない。その内容を仔細に検討すれば、直ちに判明するように監査役が取締役に代つて、会社業務の執行として「会社運営に関する件」なる議題の総会を招集することは出来ないのである。監査役は会社の業務や経理の監査の他行為能力はない。監査役は会社監査の目的以外に総会を招集することは出来ずその招集したものは総会とはならない。

総会でないものが追認の行為を為し得る訳のものでもない。

(四) 被上告人(被控訴人)は狹い意味でその所有権取得を主張し、その余の控訴人(上告人)の主張は否認しているに過ぎない。

五、即ち原判決は一種の仮定抗弁事実を当事者が主張しないに拘らず、勝手に持出して来て独り角力を取り当事者の主張しない事実を判断の資料に供しているものである。

之は民事訴訟の根本原則である当事者弁論主義を破るものであり、数多くの従来の大審院判決殊に冒頭に引用した判決にも明白に反する。

六、仍て原判決を破毀して原審に差戻すよう御裁判あり度い。

以上

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